2018年7月アーカイブ

結局、出資持分をどうすべきなのか?
これは大変に難しい問題です。

厚生労働省では、医療法人の出資持分に関して「持分によるリスクと持分なし法人への移行事例に関する調査研究 報告書」(持分なし医療法人への円滑な移行マニュアル改訂版)という調査研究結果を公表しています。該当webサイトはこちら(サイトの下半分にあります)
この研究報告で示されている医療法人の選択肢は次のとおりです。

持分あり法人⇒持分なし法人へ移行⇒①法定の要件を満たす場合 ⇒社会医療法人
               (医療法人への贈与税課税なし)   又は
                               特定医療法人
                 ②持分放棄等の定款変更  ⇒一般の持分なし医療法人
               (医療法人への贈与税課税あり)   又は
                               基金拠出型医療法人
今回改正された移行認定認定制度は上記①に追加されるべきものでしょう。

しかし、この報告書は移行を検討する法人への情報提供として作成されているため、もう一つの重要な選択肢が書いてありません。
それは「現状維持」という選択肢です。

解説の第1回目で、出資持分とは社員退社時の払戻請求権又は解散時の残余財産分配請求権であると述べました。また、第2回目では、出資持分が財産権であり、国が強制的になくすことはできないものとも書きました。
そう、出資持分は財産なのです。しかも、医療法人に内部留保として蓄えられた財産であり、その内部留保は役職員が一丸となって法人運営を行い、(安くないであろう)法人税を負担した後のものです。これだけ苦労して蓄えた内部留保は、現状維持=個人に帰すべき財産 という考えも当然あってしかるべきでしょう(厚労省の言い分は全く異なるかもしれませんが)。

ここから先は全くの「私見」となりますが・・・
私なら、苦労して蓄えた財産を放棄なんてしたくありません。他人にあげたくもありません。ましてや、もう一回税金(贈与税)を払ってお国に返すなんてまっぴらゴメンです。

その場合には「現状維持」を選択して、後継者が見つからなければ法人を解散して残余財産を分配してもらうか、あるいは自分が死んで相続となったら遺族に持分の払戻を受けてもらっていいと思います(法人は解散又はM&A等の方向に向かいます)。

しかし、後継者がいて法人の継続性が見込まれ、後継者が法人の内部留保を使う予定があるのであれば、後継者に全部使ってもらっても構わないとも思います。
そうなった場合には、出資持分を持っていることのリスクのほうが大問題となります。そのときは出資持分を放棄して、持分なし法人に移行するでしょう。

こう考えると、医療法人の出資持分をどうするかという問題は、事業承継の問題と表裏一体であることが分かります。

つまり、持分をどうするのかは、事業承継をどうするかが決まらないと決めようがないという側面があるのです。

もちろん、事業承継の方向性が完全に決まらないと何もできない、というわけではありません。
現に私のお客様でも、理事長の急死によって想定外の相続が発生し、身内では承継できなかったため副院長が事業を引き継いだ事例がありました。
この事例では、出資持分の払い戻しを行うと、法人運営に支障をきたす可能性が高かったことから出資持分の放棄に応じてもらい、移行認定制度を利用することで遺族の相続税免除と法人の贈与税納税猶予を認めてもらっています。
これは今のところ非常に上手くいっているケースです。
また、「財産権なんて要らないよ、贈与税でも何でも払うから、とにかく相続税の不安を解消してくれ!」と仰るかたは早々に持分なしに移行しましょう。

結論から言えば、「医療法人の出資持分は事業承継の問題と併せて、できるだけ早めに検討しておくに越したことはない」というありきたりな言い方になってしまいます。
ここまで延々と書き連ねてきた挙げ句に「へなへな~」となってしまう結論ですが、一般論としてはこのようにしか書きようがありません。

そのような、何とも難しい出資持分の取扱において、今回の移行計画認定制度はある意味「画期的」な制度となっており、種々の選択肢の中に入れて検討してみるべき制度であると思います。
ただし、ここまで苦労してお読みいただいた方には、もうお分かりかもしれませんが、この制度を適用できる局面はそれほど多くないと思います(一説によれば、厚労省の目標としては1,000件程度とのです)。
しかし、もしも適用条件が合えば、事業承継(特に親子間承継)を行う上で、非常にメリットのある制度であることは間違いありません。
まだ検討されていない法人におかれては、早急に検討されることをお勧めします。
あと2年しかありません(準備期間を考えたら実質1年?です)。

医療法人の事業承継については、これもまた長くなるので別途記述したいと思います。

第4回の4回目
今回は最後の2要件です。
(7)自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること
(8)医業収入が医業費用の150%以内であること

まず、「自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること」(医療法施行規則第57条の2第1項第2号ロ)についてです。
ここでは
①自費患者とはどの範囲をいうのか
②社会保険診療と「同一の基準」とはどのようなことをいうのか
が問題となります。
①については、「自費患者」とは、社会保険診療又は労災保険診療に係る患者以外の患者であるとされています。
社会保険診療とは租税特別措置法第二十六条第二項に規定する社会保険診療をいうものと規定されていますので、前回の社会保険診療「等」に係る収入金額で出てきた社会保険診療と範囲は同じになります。労災保険も同様です。

②については以下のとおりとなっています。
「社会保険診療報酬と同一の基準」とは、次に掲げるもののほか、その法人の診療報酬の額が診療報酬の算定方法の別表に掲げる療養について、同告示及び健康保険法の施行に関する諸通達の定めるところにより算定した額程度以下であることの定めがされており、かつ、報酬の徴収が現にその定めに従ってされているものであること
(イ) 公害健康被害者に係る診療報酬及び予防接種により健康被害者に係る診療報酬にあっては、法令等に基づいて規定される額
(ロ) 分娩料等健康保険法の規定に類似のものが定められていないものにあっては、地域における標準的な料金として診療報酬規定に定められた額を超えない額

また、上記の算定については、必ずしも1点10円としなければならないわけではなく、Q&Aに以下の回答が記載されています。
『「持分の定めのない医療法人への移行に関する計画の認定制度について(H29 年9 月29 日付け医政局医療経営支援課長通知)」記 第24(7)のとおりであるが、診療報酬の算定方法等により算定した額「程度」以下とされている。
「程度」であり、1 点10 円に限らない。多くの地域で定められている自賠責保険の診療費算定基準は、薬剤等モノを1 点12 円とし、その他の技術料はこれに20%を加算した額を上限としており、これは妥当と認めている。』

最後に「医業収入が医業費用の150%以内であること」の要件です。
条文上は、「医療診療により収入する金額が、医師、看護師等の給与、医療の提供に要する費用(投薬費を含む。)等患者のために直接必要な経費の額に百分の百五十を乗じて得た額の範囲内であること。(医療法施行規則第57条の2第1項第2号ハ)」となっています。
ここでは
①医療診療とは何を言うのか
②収入する金額とは何か
③患者のために直接必要な経費の額とは何か
が問題となります。その内容はそれぞれ以下のとおりです。
①については
医療診療とは:社会保険診療、労災保険法に係る診療及び自費患者に係る診療
②については
収入する金額とは:損益計算書の本来業務事業損益に係る事業収益の額
③については
直接必要な経費の額とは:損益計算書の本来業務事業損益に係る事業費用の額
とされています。
②における①についての収入金額と③の金額の比率が150%以内であることが要件です。

したがって、本来業務と附帯業務を行っている場合には、それらを区分して経理する必要が出てきます。
もっとも、都道府県等への決算届けの様式上、本来業務と附帯業務は区分して損益計算書を作成するようになっていますので、決算届けを適正に提出している限り問題とはなりません。
また、実際にこの比率が150%を超えるというケースはあまりないかと思います。

確認のため記載しておきますが、医療法人の本来業務とは医療法第39条第1項に掲げる業務をいいます。
医療法第39条 病院医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
この4種類の施設だけが医療法人の本来業務です。それ以外は全て附帯業務となります。
ちなみに、医療法人が行うことができる附帯業務とは医療法第42条各号に掲げられている業務となります。

承前~
今回解説するのは次の2要件です。
(5)法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
(6)社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること

医療法施行規則では(5)の要件について以下のように規定されています。
「当該経過措置医療法人につき法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部若しくは一部を隠蔽し、又は仮装して記録若しくは記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと。」(医療法施行規則第57条の2第1項1号ホ)

このうち、法令に違反する事実とは医療に関する法令の場合には次のいずれかの事実がある場合とされています。
(イ) 医療に関する法律に基づき医療法人又はその理事長が罰金刑以上の刑事処分を受けた場合
(ロ) 医療法人の開設する医療機関に対する医療監視の結果、重大な不適合事項があり、都道府県知事から改善勧告が行われたが是正されない場合
(ハ) 医療法第30条の11の規定に基づく都道府県知事の勧告に反する病院の開設、増床又は病床種別の変更が行われた場合
(ニ) 医療法人の業務若しくは会計が法令、法令に基づく都道府県知事の処分、定款に違反し、又はその運営が著しく適正を欠くと認められた場合であって、医療法第64条第1項の必要な措置をとるべき旨の命令若しくは同条第2項の業務の全部若しくは一部の停止の命令又は役員の解任の勧告が発せられた場合
(ホ) その他(イ)から(ニ)までに相当する医療関係法令についての重大な違反事実があった場合


では、公益に違反する事実とは具体的にどのようなことを言うのでしょうか?
これについては質疑応答集に以下のようなQ&Aが示されています。

Q7.相続税法施行令第33条第3項第4号に規定されている「公益に反する事実」は、具体的にどのような事実か。例えば、脱税行為や診療報酬の不正請求は、これに当たるのか。
A7.「公益に反する事実」というのは、個別の事案の事情により、いろいろな角度から検討されるべきものである。例えば、一般的に脱税行為や診療報酬の不正請求はこれに当たるものと考えられるが、最終的には、個別の事案に応じて、その行為の違法性など、様々な事情を勘案して総合的に判断するものと思われる。

私たち税理士は「仮装・隠蔽」と聞いた瞬間に「重加算税」と連想してしまうのですが、ここでは「脱税行為」と書いてあります。厳密には重加算税の対象と脱税とはイコールではないので、脱税行為がどこまでを指すのか判断に困るのですが、少なくとも重加算税の対象となる仮装隠蔽行為があったら難しいのではないでしょうか。

次に「社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること」についてです。

全収入金額とは本来業務・附帯業務に係る事業収益の合計額を言います。
これが分母であり、分子は社会保険診療等に係る収入金額です。その比率が80%超であることが要件となっています。

ここで注意しなければならないのは「社会保険診療等」の範囲です。
社会保険診療等とは以下のものとされています。
・租税特別措置法に規定する社会保険診療※1
・健康増進法第4条に規定する健康増進事業のうち健康診査に係る収入金額※2
・定期予防接種、臨時予防接種及び任意の予防接種のうち厚生労働大臣が定める予防
接種に係る収入金額※3
・助産(社会保険診療・健康増進事業に係るものを除く)に係る収入金額(50万円を
限度)
・介護保険法の規定に基づく保険給付に係る収入金額※4

※1社会保険診療には、介護保険法の規定による
・指定居宅サービス(訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション、短期入所療養介護に限る)のうち、当該居宅介護サービス費の額の算定に係る当該指定居宅サービスに要する費用の額として介護保険法の規定により定める金額に相当する部分
・指定介護予防サービス(介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防通所リハビリテーション、介護予防短期入所療養介護に限る)のうち、当該介護予防サービス費の額の算定に係る当該指定介護予防サービスに要する費用の額として介護保険法の規定により定める金額に相当する部分を含む
※2健康増進事業に係る収入金額とは、次に掲げる健康診査等に係る収入金額の合計額(社会保険診療報酬と同一の基準により計算されているものに限る)
(イ)健康保険法の規定により保険者が行う健康診査
(ロ)船員保険法の規定により全国健康保険協会が行う健康診査
(ハ)国民健康保険法の規定により保険者が行う健康診査
(ニ)国家公務員共済組合法の規定により行う国家公務員共済組合又は国家公務員共済組合連合会が行う健康診査
(ホ)地方公務員等共済組合法の規定により地方公務員共済組合又は全国市町村職員共済組合連合会が行う健康診査
(ヘ)私立学校教職員共済法の規定により日本私立学校振興・共済事業団が行う健康診査
(ト)学校保健安全法の規定により学校において実施される健康診断又は市町村の教育委員会が行う健康診断
(チ)母子保健法の規定により市町村が行う健康診査
(リ)労働安全衛生法の規定により事業者が行う健康診断若しくは労働者が受ける健康診断又は労働者が自ら受ける健康診断
(ヌ)高齢者の医療の確保に関する法律により保険者が行う特定健康診査及び後期高齢者医療広域連合が行う健康診査
※3厚生労働大臣が告示で定める予防接種
(イ)麻しんに係る予防接種(定期の予防接種等を除く)
(ロ)風しんに係る予防接種(定期の予防接種等を除く)
(ハ)インフルエンザに係る予防接種(定期の予防接種等を除く)
(ニ)おたふくかぜに係る予防接種
(ホ)ロタウィルス感染症に係る予防接種
※4租税特別措置法26条第2項第4号に規定するものを除く
以下は租税特別措置法の該当条文です(括弧書きを外し、適宜句読点を付し改行してあります)
介護保険法の規定によつて居宅介護サービス費を支給することとされる被保険者に係る指定居宅サービスのうち、当該居宅介護サービス費の額の算定に係る当該指定居宅サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分、
同法の規定によつて介護予防サービス費を支給することとされる被保険者に係る指定介護予防サービスのうち、当該介護予防サービス費の額の算定に係る当該指定介護予防サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分、
若しくは同法の規定によつて施設介護サービス費を支給することとされる被保険者に係る介護保健施設サービスのうち、当該施設介護サービス費の額の算定に係る当該介護保健施設サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分
又は、健康保険法等の一部を改正する法律附則第百三十条の二第一項の規定により、なおその効力を有するものとされる同法第二十六条の規定による改正前の介護保険法の規定によつて施設介護サービス費を支給することとされる被保険者に係る指定介護療養施設サービスのうち、当該施設介護サービス費の額の算定に係る当該指定介護療養施設サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分

介護保険による給付が全て含まれるほか、予防接種についても社会保険診療に含まれることとされています。
この点、特定医療法人や社会医療法人における認定基準よりも幅広くなっていることが特徴です。

承前~前回に引き続き、申請に係る実務上の問題点を解説します。
今回の要件は以下の2点です。
(3)株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
(4)遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと

まず「株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと」について。
この要件を読んでまず思い浮かべるのは、いわゆるMS法人ではないでしょうか。
しかし、ここでいう「特別の利益を与えないこと」は次のように規定されています。
 その事業を行うに当たり、
 株式会社その他の営利事業を営む者
 又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行う者
 に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。
 (医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号ハ)
つまり、株式会社等の営利企業のほか、「特定の個人もしくは団体の利益を図る活動を行う者」に対する特別の利益供与も禁止されているわけです。

さらに、特定の個人もしくは団体の利益を図る活動を行う者とは以下のように規定されています。
①株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動(公益法人等に対して、当該公益法人等が行う公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年改正法律第49号)第2条第4号に規定する公益目的事業又は医学若しくは医術又は公衆衛生に関する事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く)を行う個人又は団体

 ちょっと分かりにくいですね。こんな時には括弧を外して読みます。
 株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動を行う個人又は団体
 ただし、公益法人等に対して、当該公益法人等が行う公益目的事業又は医学若しくは医術又は公衆衛生に関する事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く

 ですから、例えば院長先生の出身大学(国立大学法人、学校法人など)に対して、医療の研究・発展のために行う寄付などは問題ありません。

②特定の者から継続的に若しくは反復して資産の譲渡、貸付け若しくは役務の提供を受ける者又は特定の者の行う会員等相互の支援、交流、連絡その他その対象が会員等である活動に参加する者に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的とする団体

 上記②に当てはまるものとしては、例えば医学部の同窓会などがあります。これはダメということですね。

このように、同じような寄付金でも、大学法人に対するものと同窓会などに対するものとでは扱いが異なってきますので注意が必要です。

また、MS法人については、MS法人が存在していることのみをもって、「特別の利益を与えない」という要件を満たさないことにはならないことが質疑応答集で示されています。
つまり、前回の法人関係者に対する特別の利益供与と同様に、個々の事例ごとに判断されることになりますが、会社との取引については、公益法人に対する贈与税の取り扱いに関する税務通達が参考となります。

法第66条第4項に規定する「負担が不当に減少する結果となると認められる場合」(筆者注:法人を個人とみなして贈与税が課税される場合をいいます)とは、次のいずれかに該当すると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱う。
 ~略~
(2)贈与等を受けた法人が、贈与等をした者又はその親族その他特殊の関係がある者に対して、次に掲げるいずれかの行為をし、又は行為をすると認められる場合
 ~略~
チ 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること

このように、MS法人との取引を行うにあたっては、金額が僅少なものを除き入札等の方法によることが求められているため、契約を行うに際しての内規を整備し、運用することが必要となってきます。
また、医療法人の役員がMS法人の役員を兼務している場合には、兼務を解消しない限り申請できないとされています。
これは医療機関の開設者である法人の役員については、原則として当該医療機関の開設・経営上の利害関係にある営利法人等の役職員を兼務しないこと(「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」平成5年2月3日厚生省健康政策局総務課長・指導課長通知)となっており、医療法人の運営上問題があるためとされています。

次に(4)「遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと」についてです。
まず、「遊休財産額」って何?と思われるのではないでしょうか。
遊休財産額は以下のように定義されています。
遊休財産額とは、当該医療法人の業務のために現に使用されておらず、かつ、引き続き使用されることが見込まれない財産の価額の合計額として、直近に終了した会計年度の貸借対照表に計上する資産の総額から、次の(イ)~(ホ)までに掲げる資産のうち保有する資産の明細表に記載されたものの帳簿価額の合計額を控除した額に、純資産の額の資産の総額に対する割合を乗じて得た額とする。
(イ)当該医療法人が開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の業務の用に供する財産
(ロ)医療法第42条各号に規定する業務の用に供する財産【附帯業務】
(ハ)(イ)及び(ロ)に掲げる業務を行うために保有する財産
(ニ)(イ)及び(ロ)に掲げる業務を行うための財産の取得又は改良に充てるために保有する資金
(ホ)将来の特定の事業(定款に定められた事業に限る)の実施のために特別に支出する費用にかかる支出に充てるために保有する資金

ざっくり言うと、医療法人の事業(本来事業、附帯事業)の用(上記イ~ハ)に供されておらず、将来使用される見込み(上記ニ~ホ)がないものに純資産比率を掛けたもの、となります。
したがって、純資産が大きくなっているがそれを再投資に回さず(具体的な投資計画があるものは大丈夫です)、現金預金等として保有している法人はこの要件に引っかかる可能性が高くなります。

ところで、退職金資金の手当として生命保険契約に加入し、保険料の一部を保険積立金等として処理されている法人も多いかと思います。しかし、このような保険積立金については「業務の用に供される」資産とならないことがQ&Aで示されていますのでご注意ください。

また、遊休財産額と対比される「費用の額」とは法人の本来業務の事業費用とされています。
したがって、法人の経理において本来事業部分と附帯事業部分とを区分計算することが必要となります。
ちなみに、何が本来事業で何が附帯事業となるのかは法人の定款を見れば分かります。

第4回目は認定申請を行うにあたって実務上問題となる点について解説します。
書いているうちに長くなってしまったので、4回目は4分割でアップしたいと思います。
(最初から全8回にしろよ!と言われそうですが・・・)

さて、前回の解説で、認定申請にあたってクリアすべき要件を列挙しました。
確認のために再掲しましょう。
(1)法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
(2)役員に対する報酬等が不当に高額にならないよう支給基準を定めていること
(3)株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
(4)遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
(5)法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
(6)社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
(7)自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること
(8)医業収入が医業費用の150%以内であること
これらを「認定8要件」と言ったりもします。

それぞれ見てみると、比較的簡単にクリアできそうなもの、難しそうなもの、一見意味が分からないもの、いろいろあります。

順番に見ていきましょう。今回は(1)と(2)についてです。

(1)法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
 ここでの問題点は二つ。
 ①「法人関係者」とはどこまでを言うのか
 ②「特別の利益」とはどのようなことを言うのか

 ①の法人関係者の範囲は以下のとおりとされています。(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号イ)
 (イ) 当該医療法人の理事、監事、これらの者に準じ当該医療法人が任意に設置するもの又は使用人
 (ロ) 出資者(持分の定めのない医療法人に移行した後にあっては、従前の出資者で持分を放棄した者を含む)
 (ハ) 当該医療法人の社員
 (ニ) (イ)から(ハ)までに掲げる者の配偶者及び三親等以内の親族
 (ホ) (イ)から(ハ)までに掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
 (ヘ) (イ)から(ハ)までに掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者
 (ト) (ホ)又は(ヘ)に掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしている者
簡単にまとめると、役員・従業員、出資者、法人の社員、とそれらの親族(三親等以内)、内縁関係者又は特殊関係人(愛人)、及びそれらと生計を一にしているもの、となります。厚生労働省の資料に分かりやすい図がありますので転載します(禁転載と書いてないので・・・)
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 個人的には(金銭その他の財産によって生計を維持している者)のイラストがお気に入りです。厚労省さんGJ!d(^^;)

 次に②「特別の利益」とはどのようなことを言うのか、についてです。
 これについては①の者に以下のような行為をしたと認められ、かつ、その行為が社会通念上不相当と認められる場合に「特別の利益供与」があったと判断されます。
 (イ) 当該医療法人の所有する財産をこれらの者に居住、担保その他の私事に利用させること
 (ロ) 当該医療法人の余裕金をこれらの者の行う事業に運用していること
 (ハ) 当該医療法人の他の従業員に比し有利な条件で、これらの者に金銭の貸付をすること
 (ニ) 当該医療法人の所有する財産をこれらの者に無償又は著しく低い価額の対価で譲渡すること
 (ホ) これらの者から金銭その他の財産を過大な利息又は賃貸料で借り受けること
 (ヘ) これらの者からその所有する財産を過大な対価で譲り受けること、又はこれらの者から当該医療法人の事業目的の用に供するとは認められない財産を取得すること
 (ト) これらの者に対して、当該医療法人の役員等の地位にあることのみに基づき給与等を支払い、又は当該医療法人の他の従業員に比し過大な給与等を支払うこと
 (チ) これらの者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受け(当該医療法人の設立のための財産の提供に伴う債務の引受けを除く。)をすること
 (リ) 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること
 (ヌ) 事業の遂行により供与する利益を主として、又は不公正な方法で、これらの者に与えること

これだけ書いても具体的にどのようなケースが問題になるのか、よく分からないかもしれません。

例えば、理事長の愛人である職員[上記①の(ヘ)]に対して、他の職員よりも(お手当込みで)割高な給与を支払っている[上記②の(ト)]としたら、「それはダメだろう」と思いますよね。
では、理事長[上記①の(イ)]に貸与している社宅[上記②の(イ)]があって、賃料をもらっているケースではどうでしょうか?
このような場合には、その行為を行うことに合理性があり、社会通念上相当と認められるか否かで判断することになると思われます。
一般的に「社宅」とは、法人がその職員等に対して業務上の必要性や福利厚生のために貸与するものと考えられています。
したがって、理事長の社宅を考える場合には、業務上の必要性があるのか、福利厚生のためであれば全従業員を対象に一定の内規に基づいて貸与しているものであるか、また、賃料は社宅の質に対して適正額であるのか、等を考慮する必要があります。これらについて合理的な回答ができないのであれば特別の利益供与があったと考えざるをえないでしょう。
このように、利益供与についてはケーズバイケースの判断とならざるを得ないため、この要件については慎重に考慮する必要があります。

次に(2)役員に対する報酬等が不当に高額にならないよう支給基準を定めていること、についてです。
ここでの「報酬等」とは「報酬、賞与、その他の職務遂行の対価として受け取る財産上の利益及び退職手当」であるとされています。(医療法施行規則第30条の35第1項第1号ニ)
要は、報酬の支給基準を定めればよいのですが、問題は「いくらまでであれば(不当に高額)とならないのか?」ということです。
この点に関しては、社会医療法人でも同様の要件(認定基準)が設けられています。
また、特定医療法人については役員一人につき年間の給与総額が3,600万円以下との基準が定められています。

また、社会福祉法人についても同様の基準が設けられており、こちらは各法人が一般に公開しているのですが、社会福祉法人と医療法人では事業規模や事業内容が全く異なっているため、参考程度にしかならないでしょう。

実務上は、これらの基準を参考にして法人内で規程を設けることになります。
しかし、3,600万円という具体的な金額基準が存在する以上、この基準に引っ張られる側面があることは否定できないと思います。

次回に続く。


第3回は持分なし医療法人制度への移行計画認定制度の内容について解説します。
「持分なし医療法人への移行計画認定制度」とは「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行計画を国が認定する制度を設け、贈与税・相続税猶予等の税制措置を行うものです。
極めて簡単に言うと、認定を受けて持分なしに移行すれば、贈与税・相続税がかからない制度です。
(もちろん種々の要件を満たす必要はありますが・・・)

この制度が導入されたのは平成26年10月からであり、平成29年9月まで3年間の時限措置とされていましたが、これが平成32年9月まで延長されました。
つまり3年の予定であったものがもう3年、つごう6年に延長されたわけですが、当初の3年間(以下「旧制度」と呼びます)と延長後の3年間(以下「新制度」と呼びます)では、その内容が全くと言ってよいほど異なっています。

1.認定制度の概要(新制度)
持分なし医療法人への移行計画認定~移行~税制措置の手続きは、以下のような一連のstepで行われます。
 step1:持分なし医療法人へ移行するか否か検討し、意思決定(社員総会決議が必要)
 step2:持分なし医療法人への移行計画の策定
 step3:厚生労働大臣に対し、移行計画の認定申請(認定要件あり※①)
 step4:上記計画についての厚生労働大臣の認定(移行《計画》期間は認定日から最長3年)
 step5:所管庁(都道府県又は政令市)に対し認定医療法人である旨の定款変更の申請
 step6:定款の変更認可⇒厚生労働大臣に対し定款変更認可の報告
 step7:移行計画の進捗状況の報告(認定日から1年経過ごと)
 step8:出資持分の処分(持分放棄、払戻、相続等)
 step9:厚生労働大臣に対し、持分の処分の報告
 step10:所管庁に対し、残余財産帰属の定款変更認可申請
 step11:残余財産帰属の定款変更認可(移行完了※②)
 step12:移行完了日の翌年の3月15日までに贈与税の申告(納税猶予)書提出
 step13:移行完了後、1年を経過するごとに厚生労働大臣に対し運営状況(※③)を報告
 step14:移行完了から6年経過後、猶予された贈与税の納税が免除

こうして見るだけでもなかなか大変そうですね。

※①の認定要件は以下のとおりとなっています。
~運営方法に係る要件~
(1)法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
(2)役員に対する報酬等が不当に高額にならないよう支給基準を定めていること
(3)株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
(4)遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
(5)法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
~事業状況の要件~
(6)社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
(7)自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること
(8)医業収入が医業費用の150%以内であること

これらの要件を満たし、移行計画が有効かつ適正であれば厚生労働大臣の判定により認定が受けられます。
さらに、認定を受けた法人の持分が放棄された場合、移行完了から6年間、上記の要件を満たしていれば、上記step14のとおり医療法人に対する贈与税課税の負担は生じません。
ただし、6年間の間に上記の要件を満たさないこととなった場合には、上記step12で猶予されていた贈与税の納税義務が生じますのでご注意ください。

※②の移行完了のための定款変更は、残余財産の帰属先を「出資持分に応じた分配」から「国、地方公共団体、公益法人等」に限定する旨の定款変更です。
持分あり法人で定款にあった退社時の持分に応じた払戻の規定は単純に削除することになります。

※③運営に関する要件に該当していることを説明する書類の提出が必要です。

2.旧制度下での認定
旧制度では移行計画を策定しその計画が適正であれば、上記(1)から(8)の要件を満たしていなくても厚生労働省へ申請を行うだけで認定が下りました。
その反面、持分なし法人へ移行した際には、医療法人に対して贈与税が課税される可能性があり、贈与税が課税されないためのハードルは非常に高いものとなっていました。
非課税となる要件は相続税法施行令第33条第3項に規定されていますが、その中で特に実務上のハードルとなったのは以下のような点です。

 (1)同族関係者等が役員等の総数の3分の1以下であること(同族経営不可)
 (2)理事6人監事2人以上、など一定の事項が定款で定められていること
 (3)その事業が社会的存在として認められる程度の規模を有していること

(1)(2)の条件とも非常に厳しいのですが、(3)については2とおりの要件がありました。
ひとつは「特定医療法人」の要件に準拠した要件を満たすこと、もうひとつは「社会医療法人」の要件に準拠した要件を満たすことです。
ひとつめの特定医療法人に準拠した要件では、例えば診療所の場合は15以上、病院の場合は診療科にもよりますが、原則40床、最低30床以上の病床を有していることが必要となります。
したがって、無床のクリニックや30床未満の小規模な病院の場合、この要件を満たすことができませんでした。
ふたつめの「社会医療法人」の要件に準拠した要件では、「病院、診療所の名称が医療連携体制を担うものとして医療計画に記載されていること」というくだりがあり、いわゆる5疾病5事業と関係のない医療行為を行う医療法人は、この要件を満たすことができませんでした。
また、これらの要件を満たすかどうかは税務署が個別に判断するものとされていました。

しかし、新制度ではこれらの要件を満たす必要はなく、認定も厚生労働大臣が行うことになっています。
このように、新制度は旧制度に比べて格段に「使い勝手のよい」制度となっています。
 

「出資持分」の何が問題となるのか?
第2回目は「出資持分」の何が問題となるのかについて解説します。
第1回目で医療法人と医療法人の出資持分について説明しました。

医療法人の出資持分とは、社団である医療法人の社員資格を喪失した時、すなわち退社したときの払戻請求権又は解散時の残余財産の分配請求権であることが分かりました。
これを(かなり強引ですが)株式会社に当てはめてみると、
 退社=会社の出資者であることをやめる=株主であることをやめる
 株主であることをやめる=株式を手放す=株式を売却する
 株式を売却する時の対価は?⇒時価(当事者間で経済合理的に成立した価額)
こんな感じでしょうか。

これらはいずれも経済的な利益を受けられることを表す権利であり、財産権です。
日本国憲法第29条では財産権の保障が定められています。したがって、現在、経過措置としておかれている医療法人の出資持分を、国が強制的になくすことはありえません。

しかし、国としては医療法人の出資持分を「自主的に」なくす方向へ誘導しています。
出資持分があることで様々な問題が生じるおそれがあるためです。
では、どのような問題が生じるのでしょうか?
 
問題その1 剰余金の配当禁止、非営利性の確保に抵触するおそれがある。

問題その2 持分の払戻等によって持続的な法人運営に支障が出るおそれがある。

医療法人は医療法第54条で「剰余金の配当をしてはならない」と規定されています。
この~剰余金の配当を行わない~ということが重要です。

医療法人は非営利法人であると言われますが、非営利=利益を出してはいけない、という意味ではありません。
利益を出さなければ法人つぶれちゃいますから。
そうではなく、出した利益を再投資して法人の持続的運営を行うことが求められているのです。そのために剰余金の配当をしてはならず、配当に類する行為も行ってはいけません。
しかし、退社時に出資持分の払戻を受けたとすると、これは実質的に剰余金の配当になってしまいます。これが問題の第1です。

次に、実際に払戻を行った場合に、医療法人の経営にどのような影響を与えるかという点です。
払戻の価額は「時価」により算定された純資産に、持分割合を掛けた額によると前回書きました。
また、払い戻しは通常金銭で行われます。ですから、払戻請求が行われると時価純資産×持分割合によって算定されただけの資金が流出することになります。
しかし、それに見合う現金預金を法人が保有しているとは限りません。
法人の内部留保は固定資産や棚卸資産、金銭債権等として保有されていることも多く、内部留保の額≠手持ち現金預金であるからです。
手持ち資金が不足している場合は借入金等で補うことになります。
この場合の借入は収益につながる借入ではなく、単なる資金流出のため法人運営に与える影響は非常に大きくなるでしょう。
仮に、手持ち資金で払い戻しが可能であったとしても、設備投資等へ回す資金がその分だけ少なくなりますので、いずれにしても持続的な法人運営を行うにあたり多大な影響を及ぼす可能性があります。これが2番目の問題点です。

また、医療法人の出資持分は財産権ですので、相続が発生した場合には相続税の課税対象となる相続財産となります。
出資持分の評価が高くなっていれば多額の相続税負担が発生します。
相続税支払いのために持分の払戻請求が行われると、上記のように医療法人運営に影響を与える可能性があります。

医療法人の出資持分とは何か?
1回目は「医療法人の出資持分とは何か」について解説します。
医療法人の出資持分については、「そんなのとっくに分かってるよ」と仰る先生もおられるでしょう。しかし、実は出資持分について「何か相続税とか大変なんでしょ?」くらいの認識しかお持ちでない先生がおられるのも事実です(残念なことに自分の法人が出資持分ありかなしかすらよく分かっていない先生もいらっしゃいます)。
そこで、まず問題の根本である「医療法人」とその「出資持分」とは何かを理解することから始めましょう。

①医療法人制度
医療法人制度がスタートしたのは昭和23年の医療法制定からです。
医療法人は医療法を設立の根拠法とする法人であり、財団である医療法人(医療法人財団)と社団である医療法人(医療法人社団)とがあります。
(医療法)
第39条 病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2 前項の規定による法人は、医療法人と称する

財団は財産の集まりに法人格を与えたものです。これに対して、社団は人の集まりに法人格を与えたものです。
財団である医療法人に「出資」の概念はありませんが、代わりに「寄付行為」というものがあります。これは社団である医療法人の「定款」に相当するものです。
いっぽう、社団である医療法人には「出資」の概念があります。というか、ありました(なぜ過去形となっているかは後述します)。

平成30年3月31日現在、医療法人総数は全国で53,944法人です。そのうち医療法人財団は369、医療法人社団は53,575となっています。この53,575法人のうち出資持分のある法人は39,716法人です。つまり、医療法人全体の73.6%が出資持分ありの法人なのです。
ちなみに、医療法人総数のうち44,847法人が一人医師医療法人となっています。
これらの数値は厚生労働省のウェブサイトで公開されていますので、興味のある方はこちらをご覧下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/

さて、医療法人制度は昭和23年にスタートしたのですが、これまでに2度大きな変革を経験しています。
一つ目の大変革は昭和60年の医療法改正(昭和61年施行)で、このときに一人医師医療法人が認められました。
二つ目の大変革は平成18年の医療法改正(平成19年施行)です。この改正以後、出資持分のある医療法人は設立が認められなくなりました。なので、法人の設立登記の日が平成19年7月以降となっている法人はおそらく全て持分なしの法人のはずです。
つまり、出資持分ありの法人となりうるのは平成18年以前に設立された医療法人社団ということになります。
先に「ありました」と書いたのは、現在では出資持分あり法人の新規設立が認められていないからです。しかし、平成18年以前に設立された社団たる法人の出資持分については当面の間、経過措置として持分ありのまま認めることとし、持分なし法人への自主的な移行を求めることになっています。

②出資持分とは何か?
医療法人の出資持分とは、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利をいう(H26改正医療法附則10条の3第2号かっこ書)」とされています。

出資持分の定義は以上で全てです。
ですから、自分とこの法人が持分ありなのか、なしなのかを確かめる方法はただひとつ、「定款を見る」こと以外にありません。
さっそく見てみましょう。
平成19年にモデル定款(医療法人の定款認可を受ける際に参考とすべき定款例)の変更が行われ、全ての医療法人は新しいモデル定款に沿って定款変更を行うこととされました。その後、平成28年、平成30年にもモデル定款の変更が行われています。したがって、医療法人の定款は少なくともこのどちらかのモデル定款に沿った形で作成されているはずです。
平成19年の例でみると、このようになっています。
ー第3章ー 社員
第〇条 社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。
  (1) 除 名
  (2) 死 亡
  (3) 退 社
第〇条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。

ー第8章ー 解散及び合併
第〇条 本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする。

平成28年以後の最新のモデル定款例では、社員の章が第3章から第4章へ、第8章の解散及び合併が第9章 解散、合併及び分割と変更されています。

このように、出資持分の有無とその内容を規定しているのはあくまでも定款です。
その内容は、
①社員資格喪失時の払戻請求権
②解散時の残余財産分配請求権
の2点に集約されます。
また、①の払戻請求件については、持分の「時価」によって払い戻すことが判例で確定しています。
※最高裁判決(H22.4.8)
定款の「出資額に応じて返還を請求することができる。」との規定は、出資社員は退社時に同時点における法人の財産評価額に、同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当。

なお、ここで言う「社員」とは社団の構成員という意味であり、株式会社でいうところの株主に相当するものです。従業員や職員のことではありませんのでご注意下さい。

したがって、出資持分なし法人への移行を行うためには上記の二つの条文を削除することを社員総会で決議し、所管庁の定款変更認可を受ければ済むことになります。
ただし、いったん持分なし法人へ移行したら、再び持分あり法人へ戻ることはできません(ここ重要です)。

次回は「出資持分」の何が問題なのか について解説します。


昨年の10月1日から医療法の一部が改正され、改正後の持分なし医療法人への移行計画認定制度がスタートしました。
施行から9ヶ月が経過し、すでに4月時点で50件以上の認定申請が行われているとのことです。3月決算法人で認定申請を行う法人はこれから続々と出てくるでしょうから、件数はこれからかなり増加すると見込まれています。
しかし、そのいっぽうで、この制度が平成32年9月末までの期間限定であることや申請までに一定の準備期間を要することを考えると、まだまだ制度の理解が進んでいないようにも感じます。
そこで、当ブログではこれから5回に分けて、持分なし医療法人への移行認定制度の概要を解説して行きたいと思います。ご参考となれば幸いです。
1回目:医療法人の「出資持分」とは何か?
2回目:「出資持分」の何が問題となるのか?
3回目:持分なし医療法人への移行計画認定制度の内容
4回目:認定申請を行うにあたって実務上問題となる点
5回目:結局、出資持分をどうすればよいのか?

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