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投資損益計画について

前々回の投稿に関連して、投資損益計画について書きたいと思います。

会計は損益を計算するものですが、その本質は、投下資本の回収計算です。
設備投資や人材確保等を行う際に、意思決定の最も重要な基準は、
「その投資(資本投下)を行うことに見合う回収ができるかどうか?」にあります。
回収ができなければ「過剰投資」となってしまい、結果として赤字につながります。
したがって、投資を考えるにあたっては、回収できるかどうかを慎重に検討する必要があり、投下資本と回収の計画を立てることが望ましい(というか絶対に必要)とされています。
これが「投資損益計画」といわれるものです。

損益計画を立てるにあたっては、設備投資から得られる収益を見込むことになるわけですが、
一口に設備投資といってもその内容はさまざまであり、そこから得られる収益(回収)も個々の投資ごとに異なってきます。
ポイントは、その得られる回収額とその時期、及び期間です。

回収(収益)額に何を持ってくるかについては、いろいろな考え方ができます。
最初に思いつくのは売上高でしょう。売上高を回収と考える場合、
回収額=売上高=販売単価×販売数量 で計算されます。
この場合の回収見込は販売単価の設定と、設定した単価のもとでの販売数量予測から構成されます。
ただ、実務的にはその単価設定と販売予測が一番難しいのですが・・・

次に、キャッシュ・フローを回収額と考える方法があります。売上高が上がっても、入金が遅れれば手元に入ってくる資金は増えません。
投資計画は、一定期間における資金の投入と回収の計画ですので、回収額としてはキャッシュ・フローのほうが優れています。

さらに、投資の回収については時期と期間も大事です。投資の回収には一定の時間がかかるため、時間価値の調整が必要になってくるためです。

たとえば、投資収益率を年率5%で予定する場合、現在手元にある100万円と1年後の100万円の価値は違います。
現在の手元にある100万円を投資すれば、1年後には105万円になるからです。
逆に言えば、1年後の100万円に等しくなる現在の手元現金は、
100万円÷(1+0.05)=952,381円となります。
このような考え方を「割引現在価値」と言います。

これらの考え方でもって各種の投資計画(長期的経営意思決定)評価を行うのですが、
具体的な手法には「期間利益(原価)比較法」、「内部利益率法」、「正味現在価値法」、「回収期間法」などの方法があります。

これらの方法についてここで詳細に述べることはしませんが、
私としては、大事なのは
「やりたいことを持続可能な形で実現するためにどうするか」
であり、これを判断するために計画や各種の評価手法があると考えています。
まあ、口で言うのは簡単なのですが・・・

ずいぶん前の話になりますが。。。かれこれ20年くらい前?のことです。
あるところで、カナダ人の元経営コンサルタントという方にお目にかかる機会がありました。
自己紹介の後で「ご職業は?」という流れになり、私が「CPA(公認会計士の略称※)です。XXファーム(会計事務所)で働いています。」と答えたら、「ahhhh 、私は以前〇〇コンサルティングで経営コンサルタントとして働いていたんですよ。」とのこと。
※米国ではCertified Public Accountant 英国ではChartered Accountant カナダではChartered Professional Accountant と言います。なお、CPAの発音を丁寧に指導いただいたのはご愛嬌・・・

ここからが本題ですが、その方が「会計士は常にNo!No!と言い、コンサルタントは常にYes!Yes!Yes!というんだよね~」と笑いながら仰ってました。
もちろん冗談で、私もそれっきり忘れていたのですが、最近、ふと、このときのことを思い出しました。

確かに、会計士は「No」と言うことが多いと思います。実際には「う~ん、それにはこういうリスクがあるので厳しいんじゃないでしょうか?」と遠回しに言いますが。。。
会計士には、まず「リスクを回避・最小化する」という思考が働きがちです。これは私自身が感じていることですが、他の会計士さんも賛同いただけるのではないでしょうか。
これに対して、コンサルタントは「目標を実現する」ためにどうするか、という思考が働くのではないかと思います。このため、往々にして「Yes!」と言いがちなのかなと。
これらは、良いか悪いかという話しではありません。単に、ひとつの物事に対するアプローチの違いです。

さて、私は会計士でありますが同時に医業経営コンサルタントでもあります。
両面を持つ私はYesと言うのかNoと言うのか??

コンサルタントとして関わることが多いのは、開業支援の局面です。
これまで何度も開業のお手伝いをしてきましたが、やはり開業前は厳しめの利益予測をしてしまいます(他のコンサルさんが出してこられる計画が甘すぎることも多いのですが・・・)。
また、初期投資を極力抑えるように思考するのもそうでしょう。
会計士は、どうしても貸借対照表が「重く」なるのがイヤなんですよね。
※「重い」とは借金と資産、どちらも多額な状態をいいます。
そういう意味では、確かに私は「No!」と言う会計士です。

では、何でもかんでも「No」と言うかといえば、そうでもありません。
将来の拡張余地を確保する場合や、診療の特色となる医療機器の導入など、投資に見合う回収が十分に期待できる場合には、こちらから積極的に提案させていただくこともあります。

要はバランスの問題だと思います。
初期投資は抑えたい、しかし、初期投資を抑えることに汲々とするあまり、せっかくの回収機会を逃してしまっては元も子もありません。
そんなときには「Yes!Yes!」と言うでしょう。

リスクを負うのは経営者となる先生ご自身ですので、最終的な意思決定を下せるのは先生ご自身しかありません。
しかし、意思決定の参考となる情報提供は、私たち専門家の役割です。そこでは厳しいことを言うかもしれません。
また、開業後、経営が軌道に乗るまでの期間、経営者はいろいろな不安に耐えなければなりません。
そのような不安に寄り添ってあげるのも、私たちコンサルタントの役割だと思っています。

つまり、「No」だけでもなく「Yes」だけでもなく、その時々に応じた(専門的な)助言を行うことが重要なのだよな、と改めて思った次第です。


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