持分なし医療法人への移行計画認定制度の解説~4回目~2/4

承前~前回に引き続き、申請に係る実務上の問題点を解説します。
今回の要件は以下の2点です。
(3)株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
(4)遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと

まず「株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと」について。
この要件を読んでまず思い浮かべるのは、いわゆるMS法人ではないでしょうか。
しかし、ここでいう「特別の利益を与えないこと」は次のように規定されています。
 その事業を行うに当たり、
 株式会社その他の営利事業を営む者
 又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行う者
 に対し、寄附その他の特別の利益を与える行為を行わないものであること。
 (医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号ハ)
つまり、株式会社等の営利企業のほか、「特定の個人もしくは団体の利益を図る活動を行う者」に対する特別の利益供与も禁止されているわけです。

さらに、特定の個人もしくは団体の利益を図る活動を行う者とは以下のように規定されています。
①株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動(公益法人等に対して、当該公益法人等が行う公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年改正法律第49号)第2条第4号に規定する公益目的事業又は医学若しくは医術又は公衆衛生に関する事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く)を行う個人又は団体

 ちょっと分かりにくいですね。こんな時には括弧を外して読みます。
 株式会社その他の営利事業を営む者に対して寄附その他の特別の利益を与える活動を行う個人又は団体
 ただし、公益法人等に対して、当該公益法人等が行う公益目的事業又は医学若しくは医術又は公衆衛生に関する事業のために寄附その他の特別の利益を与えるものを除く

 ですから、例えば院長先生の出身大学(国立大学法人、学校法人など)に対して、医療の研究・発展のために行う寄付などは問題ありません。

②特定の者から継続的に若しくは反復して資産の譲渡、貸付け若しくは役務の提供を受ける者又は特定の者の行う会員等相互の支援、交流、連絡その他その対象が会員等である活動に参加する者に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的とする団体

 上記②に当てはまるものとしては、例えば医学部の同窓会などがあります。これはダメということですね。

このように、同じような寄付金でも、大学法人に対するものと同窓会などに対するものとでは扱いが異なってきますので注意が必要です。

また、MS法人については、MS法人が存在していることのみをもって、「特別の利益を与えない」という要件を満たさないことにはならないことが質疑応答集で示されています。
つまり、前回の法人関係者に対する特別の利益供与と同様に、個々の事例ごとに判断されることになりますが、会社との取引については、公益法人に対する贈与税の取り扱いに関する税務通達が参考となります。

法第66条第4項に規定する「負担が不当に減少する結果となると認められる場合」(筆者注:法人を個人とみなして贈与税が課税される場合をいいます)とは、次のいずれかに該当すると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱う。
 ~略~
(2)贈与等を受けた法人が、贈与等をした者又はその親族その他特殊の関係がある者に対して、次に掲げるいずれかの行為をし、又は行為をすると認められる場合
 ~略~
チ 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること

このように、MS法人との取引を行うにあたっては、金額が僅少なものを除き入札等の方法によることが求められているため、契約を行うに際しての内規を整備し、運用することが必要となってきます。
また、医療法人の役員がMS法人の役員を兼務している場合には、兼務を解消しない限り申請できないとされています。
これは医療機関の開設者である法人の役員については、原則として当該医療機関の開設・経営上の利害関係にある営利法人等の役職員を兼務しないこと(「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」平成5年2月3日厚生省健康政策局総務課長・指導課長通知)となっており、医療法人の運営上問題があるためとされています。

次に(4)「遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと」についてです。
まず、「遊休財産額」って何?と思われるのではないでしょうか。
遊休財産額は以下のように定義されています。
遊休財産額とは、当該医療法人の業務のために現に使用されておらず、かつ、引き続き使用されることが見込まれない財産の価額の合計額として、直近に終了した会計年度の貸借対照表に計上する資産の総額から、次の(イ)~(ホ)までに掲げる資産のうち保有する資産の明細表に記載されたものの帳簿価額の合計額を控除した額に、純資産の額の資産の総額に対する割合を乗じて得た額とする。
(イ)当該医療法人が開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の業務の用に供する財産
(ロ)医療法第42条各号に規定する業務の用に供する財産【附帯業務】
(ハ)(イ)及び(ロ)に掲げる業務を行うために保有する財産
(ニ)(イ)及び(ロ)に掲げる業務を行うための財産の取得又は改良に充てるために保有する資金
(ホ)将来の特定の事業(定款に定められた事業に限る)の実施のために特別に支出する費用にかかる支出に充てるために保有する資金

ざっくり言うと、医療法人の事業(本来事業、附帯事業)の用(上記イ~ハ)に供されておらず、将来使用される見込み(上記ニ~ホ)がないものに純資産比率を掛けたもの、となります。
したがって、純資産が大きくなっているがそれを再投資に回さず(具体的な投資計画があるものは大丈夫です)、現金預金等として保有している法人はこの要件に引っかかる可能性が高くなります。

ところで、退職金資金の手当として生命保険契約に加入し、保険料の一部を保険積立金等として処理されている法人も多いかと思います。しかし、このような保険積立金については「業務の用に供される」資産とならないことがQ&Aで示されていますのでご注意ください。

また、遊休財産額と対比される「費用の額」とは法人の本来業務の事業費用とされています。
したがって、法人の経理において本来事業部分と附帯事業部分とを区分計算することが必要となります。
ちなみに、何が本来事業で何が附帯事業となるのかは法人の定款を見れば分かります。

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このページは、yoshikawaが2018年7月23日 10:34に書いたブログ記事です。

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