持分なし医療法人への移行計画認定制度の解説~4回目~1/4

第4回目は認定申請を行うにあたって実務上問題となる点について解説します。
書いているうちに長くなってしまったので、4回目は4分割でアップしたいと思います。
(最初から全8回にしろよ!と言われそうですが・・・)

さて、前回の解説で、認定申請にあたってクリアすべき要件を列挙しました。
確認のために再掲しましょう。
(1)法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
(2)役員に対する報酬等が不当に高額にならないよう支給基準を定めていること
(3)株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
(4)遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
(5)法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
(6)社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
(7)自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること
(8)医業収入が医業費用の150%以内であること
これらを「認定8要件」と言ったりもします。

それぞれ見てみると、比較的簡単にクリアできそうなもの、難しそうなもの、一見意味が分からないもの、いろいろあります。

順番に見ていきましょう。今回は(1)と(2)についてです。

(1)法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
 ここでの問題点は二つ。
 ①「法人関係者」とはどこまでを言うのか
 ②「特別の利益」とはどのようなことを言うのか

 ①の法人関係者の範囲は以下のとおりとされています。(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号イ)
 (イ) 当該医療法人の理事、監事、これらの者に準じ当該医療法人が任意に設置するもの又は使用人
 (ロ) 出資者(持分の定めのない医療法人に移行した後にあっては、従前の出資者で持分を放棄した者を含む)
 (ハ) 当該医療法人の社員
 (ニ) (イ)から(ハ)までに掲げる者の配偶者及び三親等以内の親族
 (ホ) (イ)から(ハ)までに掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
 (ヘ) (イ)から(ハ)までに掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者
 (ト) (ホ)又は(ヘ)に掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしている者
簡単にまとめると、役員・従業員、出資者、法人の社員、とそれらの親族(三親等以内)、内縁関係者又は特殊関係人(愛人)、及びそれらと生計を一にしているもの、となります。厚生労働省の資料に分かりやすい図がありますので転載します(禁転載と書いてないので・・・)
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 個人的には(金銭その他の財産によって生計を維持している者)のイラストがお気に入りです。厚労省さんGJ!d(^^;)

 次に②「特別の利益」とはどのようなことを言うのか、についてです。
 これについては①の者に以下のような行為をしたと認められ、かつ、その行為が社会通念上不相当と認められる場合に「特別の利益供与」があったと判断されます。
 (イ) 当該医療法人の所有する財産をこれらの者に居住、担保その他の私事に利用させること
 (ロ) 当該医療法人の余裕金をこれらの者の行う事業に運用していること
 (ハ) 当該医療法人の他の従業員に比し有利な条件で、これらの者に金銭の貸付をすること
 (ニ) 当該医療法人の所有する財産をこれらの者に無償又は著しく低い価額の対価で譲渡すること
 (ホ) これらの者から金銭その他の財産を過大な利息又は賃貸料で借り受けること
 (ヘ) これらの者からその所有する財産を過大な対価で譲り受けること、又はこれらの者から当該医療法人の事業目的の用に供するとは認められない財産を取得すること
 (ト) これらの者に対して、当該医療法人の役員等の地位にあることのみに基づき給与等を支払い、又は当該医療法人の他の従業員に比し過大な給与等を支払うこと
 (チ) これらの者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受け(当該医療法人の設立のための財産の提供に伴う債務の引受けを除く。)をすること
 (リ) 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること
 (ヌ) 事業の遂行により供与する利益を主として、又は不公正な方法で、これらの者に与えること

これだけ書いても具体的にどのようなケースが問題になるのか、よく分からないかもしれません。

例えば、理事長の愛人である職員[上記①の(ヘ)]に対して、他の職員よりも(お手当込みで)割高な給与を支払っている[上記②の(ト)]としたら、「それはダメだろう」と思いますよね。
では、理事長[上記①の(イ)]に貸与している社宅[上記②の(イ)]があって、賃料をもらっているケースではどうでしょうか?
このような場合には、その行為を行うことに合理性があり、社会通念上相当と認められるか否かで判断することになると思われます。
一般的に「社宅」とは、法人がその職員等に対して業務上の必要性や福利厚生のために貸与するものと考えられています。
したがって、理事長の社宅を考える場合には、業務上の必要性があるのか、福利厚生のためであれば全従業員を対象に一定の内規に基づいて貸与しているものであるか、また、賃料は社宅の質に対して適正額であるのか、等を考慮する必要があります。これらについて合理的な回答ができないのであれば特別の利益供与があったと考えざるをえないでしょう。
このように、利益供与についてはケーズバイケースの判断とならざるを得ないため、この要件については慎重に考慮する必要があります。

次に(2)役員に対する報酬等が不当に高額にならないよう支給基準を定めていること、についてです。
ここでの「報酬等」とは「報酬、賞与、その他の職務遂行の対価として受け取る財産上の利益及び退職手当」であるとされています。(医療法施行規則第30条の35第1項第1号ニ)
要は、報酬の支給基準を定めればよいのですが、問題は「いくらまでであれば(不当に高額)とならないのか?」ということです。
この点に関しては、社会医療法人でも同様の要件(認定基準)が設けられています。
また、特定医療法人については役員一人につき年間の給与総額が3,600万円以下との基準が定められています。

また、社会福祉法人についても同様の基準が設けられており、こちらは各法人が一般に公開しているのですが、社会福祉法人と医療法人では事業規模や事業内容が全く異なっているため、参考程度にしかならないでしょう。

実務上は、これらの基準を参考にして法人内で規程を設けることになります。
しかし、3,600万円という具体的な金額基準が存在する以上、この基準に引っ張られる側面があることは否定できないと思います。

次回に続く。


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このページは、yoshikawaが2018年7月12日 18:09に書いたブログ記事です。

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