持分なし医療法人への移行計画認定制度の解説~4回目~3/4

承前~
今回解説するのは次の2要件です。
(5)法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
(6)社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること

医療法施行規則では(5)の要件について以下のように規定されています。
「当該経過措置医療法人につき法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部若しくは一部を隠蔽し、又は仮装して記録若しくは記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと。」(医療法施行規則第57条の2第1項1号ホ)

このうち、法令に違反する事実とは医療に関する法令の場合には次のいずれかの事実がある場合とされています。
(イ) 医療に関する法律に基づき医療法人又はその理事長が罰金刑以上の刑事処分を受けた場合
(ロ) 医療法人の開設する医療機関に対する医療監視の結果、重大な不適合事項があり、都道府県知事から改善勧告が行われたが是正されない場合
(ハ) 医療法第30条の11の規定に基づく都道府県知事の勧告に反する病院の開設、増床又は病床種別の変更が行われた場合
(ニ) 医療法人の業務若しくは会計が法令、法令に基づく都道府県知事の処分、定款に違反し、又はその運営が著しく適正を欠くと認められた場合であって、医療法第64条第1項の必要な措置をとるべき旨の命令若しくは同条第2項の業務の全部若しくは一部の停止の命令又は役員の解任の勧告が発せられた場合
(ホ) その他(イ)から(ニ)までに相当する医療関係法令についての重大な違反事実があった場合


では、公益に違反する事実とは具体的にどのようなことを言うのでしょうか?
これについては質疑応答集に以下のようなQ&Aが示されています。

Q7.相続税法施行令第33条第3項第4号に規定されている「公益に反する事実」は、具体的にどのような事実か。例えば、脱税行為や診療報酬の不正請求は、これに当たるのか。
A7.「公益に反する事実」というのは、個別の事案の事情により、いろいろな角度から検討されるべきものである。例えば、一般的に脱税行為や診療報酬の不正請求はこれに当たるものと考えられるが、最終的には、個別の事案に応じて、その行為の違法性など、様々な事情を勘案して総合的に判断するものと思われる。

私たち税理士は「仮装・隠蔽」と聞いた瞬間に「重加算税」と連想してしまうのですが、ここでは「脱税行為」と書いてあります。厳密には重加算税の対象と脱税とはイコールではないので、脱税行為がどこまでを指すのか判断に困るのですが、少なくとも重加算税の対象となる仮装隠蔽行為があったら難しいのではないでしょうか。

次に「社会保険診療等(介護、助産、予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること」についてです。

全収入金額とは本来業務・附帯業務に係る事業収益の合計額を言います。
これが分母であり、分子は社会保険診療等に係る収入金額です。その比率が80%超であることが要件となっています。

ここで注意しなければならないのは「社会保険診療等」の範囲です。
社会保険診療等とは以下のものとされています。
・租税特別措置法に規定する社会保険診療※1
・健康増進法第4条に規定する健康増進事業のうち健康診査に係る収入金額※2
・定期予防接種、臨時予防接種及び任意の予防接種のうち厚生労働大臣が定める予防
接種に係る収入金額※3
・助産(社会保険診療・健康増進事業に係るものを除く)に係る収入金額(50万円を
限度)
・介護保険法の規定に基づく保険給付に係る収入金額※4

※1社会保険診療には、介護保険法の規定による
・指定居宅サービス(訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション、短期入所療養介護に限る)のうち、当該居宅介護サービス費の額の算定に係る当該指定居宅サービスに要する費用の額として介護保険法の規定により定める金額に相当する部分
・指定介護予防サービス(介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防通所リハビリテーション、介護予防短期入所療養介護に限る)のうち、当該介護予防サービス費の額の算定に係る当該指定介護予防サービスに要する費用の額として介護保険法の規定により定める金額に相当する部分を含む
※2健康増進事業に係る収入金額とは、次に掲げる健康診査等に係る収入金額の合計額(社会保険診療報酬と同一の基準により計算されているものに限る)
(イ)健康保険法の規定により保険者が行う健康診査
(ロ)船員保険法の規定により全国健康保険協会が行う健康診査
(ハ)国民健康保険法の規定により保険者が行う健康診査
(ニ)国家公務員共済組合法の規定により行う国家公務員共済組合又は国家公務員共済組合連合会が行う健康診査
(ホ)地方公務員等共済組合法の規定により地方公務員共済組合又は全国市町村職員共済組合連合会が行う健康診査
(ヘ)私立学校教職員共済法の規定により日本私立学校振興・共済事業団が行う健康診査
(ト)学校保健安全法の規定により学校において実施される健康診断又は市町村の教育委員会が行う健康診断
(チ)母子保健法の規定により市町村が行う健康診査
(リ)労働安全衛生法の規定により事業者が行う健康診断若しくは労働者が受ける健康診断又は労働者が自ら受ける健康診断
(ヌ)高齢者の医療の確保に関する法律により保険者が行う特定健康診査及び後期高齢者医療広域連合が行う健康診査
※3厚生労働大臣が告示で定める予防接種
(イ)麻しんに係る予防接種(定期の予防接種等を除く)
(ロ)風しんに係る予防接種(定期の予防接種等を除く)
(ハ)インフルエンザに係る予防接種(定期の予防接種等を除く)
(ニ)おたふくかぜに係る予防接種
(ホ)ロタウィルス感染症に係る予防接種
※4租税特別措置法26条第2項第4号に規定するものを除く
以下は租税特別措置法の該当条文です(括弧書きを外し、適宜句読点を付し改行してあります)
介護保険法の規定によつて居宅介護サービス費を支給することとされる被保険者に係る指定居宅サービスのうち、当該居宅介護サービス費の額の算定に係る当該指定居宅サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分、
同法の規定によつて介護予防サービス費を支給することとされる被保険者に係る指定介護予防サービスのうち、当該介護予防サービス費の額の算定に係る当該指定介護予防サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分、
若しくは同法の規定によつて施設介護サービス費を支給することとされる被保険者に係る介護保健施設サービスのうち、当該施設介護サービス費の額の算定に係る当該介護保健施設サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分
又は、健康保険法等の一部を改正する法律附則第百三十条の二第一項の規定により、なおその効力を有するものとされる同法第二十六条の規定による改正前の介護保険法の規定によつて施設介護サービス費を支給することとされる被保険者に係る指定介護療養施設サービスのうち、当該施設介護サービス費の額の算定に係る当該指定介護療養施設サービスに要する費用の額として同法の規定により定める金額に相当する部分

介護保険による給付が全て含まれるほか、予防接種についても社会保険診療に含まれることとされています。
この点、特定医療法人や社会医療法人における認定基準よりも幅広くなっていることが特徴です。

このブログ記事について

このページは、yoshikawaが2018年7月24日 16:12に書いたブログ記事です。

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