持分なし医療法人への移行計画認定制度の解説~5回目

結局、出資持分をどうすべきなのか?
これは大変に難しい問題です。

厚生労働省では、医療法人の出資持分に関して「持分によるリスクと持分なし法人への移行事例に関する調査研究 報告書」(持分なし医療法人への円滑な移行マニュアル改訂版)という調査研究結果を公表しています。該当webサイトはこちら(サイトの下半分にあります)
この研究報告で示されている医療法人の選択肢は次のとおりです。

持分あり法人⇒持分なし法人へ移行⇒①法定の要件を満たす場合 ⇒社会医療法人
               (医療法人への贈与税課税なし)   又は
                               特定医療法人
                 ②持分放棄等の定款変更  ⇒一般の持分なし医療法人
               (医療法人への贈与税課税あり)   又は
                               基金拠出型医療法人
今回改正された移行認定認定制度は上記①に追加されるべきものでしょう。

しかし、この報告書は移行を検討する法人への情報提供として作成されているため、もう一つの重要な選択肢が書いてありません。
それは「現状維持」という選択肢です。

解説の第1回目で、出資持分とは社員退社時の払戻請求権又は解散時の残余財産分配請求権であると述べました。また、第2回目では、出資持分が財産権であり、国が強制的になくすことはできないものとも書きました。
そう、出資持分は財産なのです。しかも、医療法人に内部留保として蓄えられた財産であり、その内部留保は役職員が一丸となって法人運営を行い、(安くないであろう)法人税を負担した後のものです。これだけ苦労して蓄えた内部留保は、現状維持=個人に帰すべき財産 という考えも当然あってしかるべきでしょう(厚労省の言い分は全く異なるかもしれませんが)。

ここから先は全くの「私見」となりますが・・・
私なら、苦労して蓄えた財産を放棄なんてしたくありません。他人にあげたくもありません。ましてや、もう一回税金(贈与税)を払ってお国に返すなんてまっぴらゴメンです。

その場合には「現状維持」を選択して、後継者が見つからなければ法人を解散して残余財産を分配してもらうか、あるいは自分が死んで相続となったら遺族に持分の払戻を受けてもらっていいと思います(法人は解散又はM&A等の方向に向かいます)。

しかし、後継者がいて法人の継続性が見込まれ、後継者が法人の内部留保を使う予定があるのであれば、後継者に全部使ってもらっても構わないとも思います。
そうなった場合には、出資持分を持っていることのリスクのほうが大問題となります。そのときは出資持分を放棄して、持分なし法人に移行するでしょう。

こう考えると、医療法人の出資持分をどうするかという問題は、事業承継の問題と表裏一体であることが分かります。

つまり、持分をどうするのかは、事業承継をどうするかが決まらないと決めようがないという側面があるのです。

もちろん、事業承継の方向性が完全に決まらないと何もできない、というわけではありません。
現に私のお客様でも、理事長の急死によって想定外の相続が発生し、身内では承継できなかったため副院長が事業を引き継いだ事例がありました。
この事例では、出資持分の払い戻しを行うと、法人運営に支障をきたす可能性が高かったことから出資持分の放棄に応じてもらい、移行認定制度を利用することで遺族の相続税免除と法人の贈与税納税猶予を認めてもらっています。
これは今のところ非常に上手くいっているケースです。
また、「財産権なんて要らないよ、贈与税でも何でも払うから、とにかく相続税の不安を解消してくれ!」と仰るかたは早々に持分なしに移行しましょう。

結論から言えば、「医療法人の出資持分は事業承継の問題と併せて、できるだけ早めに検討しておくに越したことはない」というありきたりな言い方になってしまいます。
ここまで延々と書き連ねてきた挙げ句に「へなへな~」となってしまう結論ですが、一般論としてはこのようにしか書きようがありません。

そのような、何とも難しい出資持分の取扱において、今回の移行計画認定制度はある意味「画期的」な制度となっており、種々の選択肢の中に入れて検討してみるべき制度であると思います。
ただし、ここまで苦労してお読みいただいた方には、もうお分かりかもしれませんが、この制度を適用できる局面はそれほど多くないと思います(一説によれば、厚労省の目標としては1,000件程度とのです)。
しかし、もしも適用条件が合えば、事業承継(特に親子間承継)を行う上で、非常にメリットのある制度であることは間違いありません。
まだ検討されていない法人におかれては、早急に検討されることをお勧めします。
あと2年しかありません(準備期間を考えたら実質1年?です)。

医療法人の事業承継については、これもまた長くなるので別途記述したいと思います。

このブログ記事について

このページは、yoshikawaが2018年7月30日 16:22に書いたブログ記事です。

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