持分なし医療法人への移行計画認定制度の解説~1回目~

医療法人の出資持分とは何か?
1回目は「医療法人の出資持分とは何か」について解説します。
医療法人の出資持分については、「そんなのとっくに分かってるよ」と仰る先生もおられるでしょう。しかし、実は出資持分について「何か相続税とか大変なんでしょ?」くらいの認識しかお持ちでない先生がおられるのも事実です(残念なことに自分の法人が出資持分ありかなしかすらよく分かっていない先生もいらっしゃいます)。
そこで、まず問題の根本である「医療法人」とその「出資持分」とは何かを理解することから始めましょう。

①医療法人制度
医療法人制度がスタートしたのは昭和23年の医療法制定からです。
医療法人は医療法を設立の根拠法とする法人であり、財団である医療法人(医療法人財団)と社団である医療法人(医療法人社団)とがあります。
(医療法)
第39条 病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2 前項の規定による法人は、医療法人と称する

財団は財産の集まりに法人格を与えたものです。これに対して、社団は人の集まりに法人格を与えたものです。
財団である医療法人に「出資」の概念はありませんが、代わりに「寄付行為」というものがあります。これは社団である医療法人の「定款」に相当するものです。
いっぽう、社団である医療法人には「出資」の概念があります。というか、ありました(なぜ過去形となっているかは後述します)。

平成30年3月31日現在、医療法人総数は全国で53,944法人です。そのうち医療法人財団は369、医療法人社団は53,575となっています。この53,575法人のうち出資持分のある法人は39,716法人です。つまり、医療法人全体の73.6%が出資持分ありの法人なのです。
ちなみに、医療法人総数のうち44,847法人が一人医師医療法人となっています。
これらの数値は厚生労働省のウェブサイトで公開されていますので、興味のある方はこちらをご覧下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/

さて、医療法人制度は昭和23年にスタートしたのですが、これまでに2度大きな変革を経験しています。
一つ目の大変革は昭和60年の医療法改正(昭和61年施行)で、このときに一人医師医療法人が認められました。
二つ目の大変革は平成18年の医療法改正(平成19年施行)です。この改正以後、出資持分のある医療法人は設立が認められなくなりました。なので、法人の設立登記の日が平成19年7月以降となっている法人はおそらく全て持分なしの法人のはずです。
つまり、出資持分ありの法人となりうるのは平成18年以前に設立された医療法人社団ということになります。
先に「ありました」と書いたのは、現在では出資持分あり法人の新規設立が認められていないからです。しかし、平成18年以前に設立された社団たる法人の出資持分については当面の間、経過措置として持分ありのまま認めることとし、持分なし法人への自主的な移行を求めることになっています。

②出資持分とは何か?
医療法人の出資持分とは、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利をいう(H26改正医療法附則10条の3第2号かっこ書)」とされています。

出資持分の定義は以上で全てです。
ですから、自分とこの法人が持分ありなのか、なしなのかを確かめる方法はただひとつ、「定款を見る」こと以外にありません。
さっそく見てみましょう。
平成19年にモデル定款(医療法人の定款認可を受ける際に参考とすべき定款例)の変更が行われ、全ての医療法人は新しいモデル定款に沿って定款変更を行うこととされました。その後、平成28年、平成30年にもモデル定款の変更が行われています。したがって、医療法人の定款は少なくともこのどちらかのモデル定款に沿った形で作成されているはずです。
平成19年の例でみると、このようになっています。
ー第3章ー 社員
第〇条 社員は、次に掲げる理由によりその資格を失う。
  (1) 除 名
  (2) 死 亡
  (3) 退 社
第〇条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。

ー第8章ー 解散及び合併
第〇条 本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする。

平成28年以後の最新のモデル定款例では、社員の章が第3章から第4章へ、第8章の解散及び合併が第9章 解散、合併及び分割と変更されています。

このように、出資持分の有無とその内容を規定しているのはあくまでも定款です。
その内容は、
①社員資格喪失時の払戻請求権
②解散時の残余財産分配請求権
の2点に集約されます。
また、①の払戻請求件については、持分の「時価」によって払い戻すことが判例で確定しています。
※最高裁判決(H22.4.8)
定款の「出資額に応じて返還を請求することができる。」との規定は、出資社員は退社時に同時点における法人の財産評価額に、同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当。

なお、ここで言う「社員」とは社団の構成員という意味であり、株式会社でいうところの株主に相当するものです。従業員や職員のことではありませんのでご注意下さい。

したがって、出資持分なし法人への移行を行うためには上記の二つの条文を削除することを社員総会で決議し、所管庁の定款変更認可を受ければ済むことになります。
ただし、いったん持分なし法人へ移行したら、再び持分あり法人へ戻ることはできません(ここ重要です)。

次回は「出資持分」の何が問題なのか について解説します。


このブログ記事について

このページは、yoshikawaが2018年7月 4日 20:25に書いたブログ記事です。

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