持分なし医療法人への移行計画認定制度の解説~2回目~

「出資持分」の何が問題となるのか?
第2回目は「出資持分」の何が問題となるのかについて解説します。
第1回目で医療法人と医療法人の出資持分について説明しました。

医療法人の出資持分とは、社団である医療法人の社員資格を喪失した時、すなわち退社したときの払戻請求権又は解散時の残余財産の分配請求権であることが分かりました。
これを(かなり強引ですが)株式会社に当てはめてみると、
 退社=会社の出資者であることをやめる=株主であることをやめる
 株主であることをやめる=株式を手放す=株式を売却する
 株式を売却する時の対価は?⇒時価(当事者間で経済合理的に成立した価額)
こんな感じでしょうか。

これらはいずれも経済的な利益を受けられることを表す権利であり、財産権です。
日本国憲法第29条では財産権の保障が定められています。したがって、現在、経過措置としておかれている医療法人の出資持分を、国が強制的になくすことはありえません。

しかし、国としては医療法人の出資持分を「自主的に」なくす方向へ誘導しています。
出資持分があることで様々な問題が生じるおそれがあるためです。
では、どのような問題が生じるのでしょうか?
 
問題その1 剰余金の配当禁止、非営利性の確保に抵触するおそれがある。

問題その2 持分の払戻等によって持続的な法人運営に支障が出るおそれがある。

医療法人は医療法第54条で「剰余金の配当をしてはならない」と規定されています。
この~剰余金の配当を行わない~ということが重要です。

医療法人は非営利法人であると言われますが、非営利=利益を出してはいけない、という意味ではありません。
利益を出さなければ法人つぶれちゃいますから。
そうではなく、出した利益を再投資して法人の持続的運営を行うことが求められているのです。そのために剰余金の配当をしてはならず、配当に類する行為も行ってはいけません。
しかし、退社時に出資持分の払戻を受けたとすると、これは実質的に剰余金の配当になってしまいます。これが問題の第1です。

次に、実際に払戻を行った場合に、医療法人の経営にどのような影響を与えるかという点です。
払戻の価額は「時価」により算定された純資産に、持分割合を掛けた額によると前回書きました。
また、払い戻しは通常金銭で行われます。ですから、払戻請求が行われると時価純資産×持分割合によって算定されただけの資金が流出することになります。
しかし、それに見合う現金預金を法人が保有しているとは限りません。
法人の内部留保は固定資産や棚卸資産、金銭債権等として保有されていることも多く、内部留保の額≠手持ち現金預金であるからです。
手持ち資金が不足している場合は借入金等で補うことになります。
この場合の借入は収益につながる借入ではなく、単なる資金流出のため法人運営に与える影響は非常に大きくなるでしょう。
仮に、手持ち資金で払い戻しが可能であったとしても、設備投資等へ回す資金がその分だけ少なくなりますので、いずれにしても持続的な法人運営を行うにあたり多大な影響を及ぼす可能性があります。これが2番目の問題点です。

また、医療法人の出資持分は財産権ですので、相続が発生した場合には相続税の課税対象となる相続財産となります。
出資持分の評価が高くなっていれば多額の相続税負担が発生します。
相続税支払いのために持分の払戻請求が行われると、上記のように医療法人運営に影響を与える可能性があります。

このブログ記事について

このページは、yoshikawaが2018年7月 5日 14:45に書いたブログ記事です。

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