相続時における医療法人の出資持分評価と課税関係 その2

~承前~
④金額の算定
では、払戻請求権はどのように計算(評価)されるのでしょうか?
(a)の場合、相続財産は「持分払戻請求権」です。したがって、払戻を受けるべき金額で評価されることになります。
このときの払戻を受けるべき金額の算定方法は最高裁判決(平成22年4月8日)で確定しており、その金額は、社員資格を喪失時点における当該医療法人の財産評価額(時価)に出資割合を乗じた額であるとされています。
ただし、ここでいう「財産評価額」の具体的な算定方法は、一つの方法に決まっているわけではありません。また、相続税の評価方法である財産評価基本通達に従わなければならないというものでもありません。
ですので、具体的にどのような算定方法をとるかについては、個々の事案ごとに過去の判例や採決例を参考にして判断することになります。
上記の判例で言えば、
(1)評価時点は払戻請求時ではなく、社員の退社時点とする。
(2)時価純資産方式により評価し、時価の値上がり益に対する法人税相当額の控除はしない。
(3)従業員の退職金等の清算費用については、純資産から控除しない。
などが主要論点となっています。
ただし、以下はあくまでも私見ですが、(3)の従業員に対する退職金については、一定規模以上の法人については清算を前提としなくても退職給付債務として計上するのが会計実務上行われているので、容認される余地があるのではないかと考えます。

また、最高裁判決の後に出た判例として、東京地裁平成26年1月15日判決(22(ワ)962号事件)などがあげられています。
(なお、この判決に関しては払戻額の算定だけでなく、医療法人の運営に関しても興味深いことが述べられているので、興味のある方は探してみてください)

(b)の場合は、払戻を行わないので医療法人の出資持分としての権利を相続したと解されます。
この場合の持分としての評価は、財産評価基本通達による評価額に従い、医療法人の出資の評価により評価することになります。
また、この場合当初出資額から価値が増加した部分も含めて価値の移転が行われますが、価値増加部分に対するみなし配当課税は強いて行わないこととされています。

⑤課税関係
(a-1)医療法人に対して直ちに払戻請求を行う場合
 出資額を超える払戻部分が被相続人へのみなし配当となるため、被相続人の準確定申告を行い配当所得として申告することになります。
 この場合は配当控除の適用が受けられ、準確定申告で納付する所得税額については相続税の課税価格計算において債務控除の対象となります。
 なお、払戻額については法人に源泉徴収義務が発生します。また、株式会社のように株式(持分)を法人に買い取ってもらう(自己株式とする)ことは予定されていませんのでご注意ください。
(株式会社の場合、相続発生から3年以内に発行会社に株式を買い取ってもらった場合はみなし配当とせず譲渡所得として取扱う特例があるのですが、医療法人ではこの特例の適用はありません。)

〈死亡退職金の課税関係との違い〉
 相続時における持分の払戻に似たものとして死亡退職金の支給があります。
 死亡退職金(相続発生後3年以内に支給確定したもの)は相続税法上相続財産とみなされるため相続税が課税されます。また、所得税は課税されず源泉徴収の必要もありません。
 上記のとおり持分の払戻は所得税が課税され、所得税を支払った後の部分に相続税が課せられます。同じようなものなのに課税関係が異なるのはなぜなのか?、また、二重課税なのでは?と疑問を持たれるかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
 この点に関しては、組合の脱退に伴う持分払戻の例ですが国税不服審判所の裁決事例があり、当該事例では以下のように裁決されています。
「本件金額は、本来は『みなし配当』として本件各組合員に支払われるべきものであるが、本件各組合員の死亡によって本件払戻請求権が一旦本件各組合員に帰属し、その後遺産として本件各組合員の相続人に承継されたことにより、当該相続人に支払われたものであり、相続人の相続税と本件各組合員の所得税が二重課税になるというものではない。また、本件払戻金は、相続税法第3条第1項各号に規定する相続又は遺贈により取得したものとみなす財産のいずれにも該当しないから、相続税法上のみなす財産とされる死亡退職金等と同列の財産ということもできない。」(平成18年11月27日裁決)

(aー2)ある程度の期間経過後に払戻請求を行う場合
 相続発生後相当の期間が経過し、相続人が出資者たる身分を実質的に継承したとみることができるような場合は、払戻を行った金額のうち出資額を超える部分が相続人に対するみなし配当となるため、相続人の配当所得として申告納付することになります。
 しかし、払戻請求までに相続税の申告期限が来てしまった場合は、下記(c)の取扱によって相続税の申告を行う必要があると考えられます。
 
(b-1)以前から医療法人の社員であった者が持分を保有する場合
(b-2)新たに医療法人の社員として入社し、持分を保有する場合
 (b)の場合は、相続財産として出資持分を取得したことになるため、上記④-(b)で述べた評価額が相続財産となり相続税の算定を行うことになります。
 ただし、(b-2)の場合は社員として入社したことを明らかにしておく必要があると考えられますので、社員総会の開催及び適切な議事録の作成、並びに社員名簿の整備を行う必要があります。

(c)払戻を請求せず、医療法人の社員にもならない場合
 この場合でも払戻請求権自体は有効ですので、払戻請求権として相続財産に含めて相続税の申告を行う必要があります。
 なお、医療法人の社員として持分を保有する場合を除き、払戻請求権を10年間行使しないと、時効により権利が消滅する可能性がありますのでご注意ください。

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このページは、yoshikawaが2020年12月 7日 10:59に書いたブログ記事です。

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